トーキングモジュレーターという面白いエフェクターがあります。エフェクターというモノが生まれてから、実にいろいろなエフェクターが誕生していますが、変わったエフェクターの筆頭がトーキングモジュレーターではないでしょうか。しかも、これが誕生したのがロックよりはすかに古いというのも驚きです。そんな大昔からあるのに、未だにこれ以上に変わったものがない(個人的感想)というのも凄いです。
ロックの世界では、ジェフベックを始め、ジョーウォルッシュ「Rocky Mowntain Way」ピーターフランプトン「Show Me The way」エアロスミス「Sweet Emotion」リックデリンジャー、ジムクリューガーなどが有名です。ボンジョビも使ってましたね。日本でもラルクアンシェルなどが使っていたそうです。
元々ファンクの世界で多く使われており、ワーワーワトソン、スティービーワンダー、ミーターズなどが使っており、最近は日本でもファンク分野でこれを使ったパフォーマンスをする人が増えているようです。
80年代に流行ったボコーダーは、これを電子的に再現しようとしたものです。ただ、少しテイストは違っていて、ボーコーダーにはまた別の味わいがあります。
トーキングモジュレーターの原理
物理的に音を変える
エフェクターというと、電子回路で電子的に音を変えるというイメージですが、トーキングモジュレーターは物理的に音を変えます。ギターの音がアフェクター内のドライバー(スピーカーのようなもの)で鳴らされて、それをホースでマイクまで持ってきます。ギターの音がでているホースの先を口にくわえて口のカタチを変えることで音が変化し、それをマイクで拾います。だからマイクがないと成立しないエフェクターです。ホースをくわえて演奏するので胃カメラと言われたりします(笑)
古代からのアイデア
このエフェクターの仕組みを人に説明しても意外と「え????」ってなかなか理解されないことがあります。使っているのを見て「歌っているのだ」と思う人も多いです。それくらい「そんなことで音が出るの?」と思うのかも知れません。竹の楽器を弾いて口の中で音を変えるアイヌ民族のムックリという楽器があるようですが、まったく同じ原理です。竹の楽器がギターの音に変わっただけです。ですからこういう発想は大昔からあったということですね。モンゴルのホーミーなんかも近いと思います。
トーキングモジュレーターの歴史
このエフェクターの歴史が意外に古く、1940年代にピアノにこれを通して、話しているように演奏している映像があります。ジェフベックの演奏はこれがモチーフだと言われています。その後カントリーの世界で使われたそうですが映像等を確認できていません。
形状のタイプ
メーカー製をはじめとして自作する人も多く、主に箱の中にドライバーを入れてそこからホースがでているという形状で、そこからホースをマイクスタンドに固定すると言った形状ですが、ジェフベックが使っていたのは、斜めがけバッグのような袋に入っていて、そこからホースがでており、使うときにはマイクに近づいて使うと言ったスタイルです。
これはKUSTAM ELECTRIC社という今はないメーカー製で、1960年代の製品だそうです。現存するのは世界に数十台と言われています。2番目の写真は据え置き型です(写真はロクトロンのバンシー)、ほとんどのミュージシャンがこのタイプを使っています。MXRなどからでています。
●Sample(Rocktron Banshee)Jeff Beck Fan.netのコンテンツから
使い方の違い
大きく2つに分かれていて、しゃべる系と擬音・ワウワウ系です。しゃべる系の代表はジェフベックでBBA時代にはYou Shook Meの歌詞を歌ったり、演奏中にDo You Feel Alright?と台詞を入れたりしています。Blow By Blowツアーでは「迷信」をこれで”歌って”いました。
ジェフベックマニアで有名なエアロスミスのジョーペリーは、Sweet Emotionのイントロでジェフベックのように歌詞を言っています。スティービーワンダーもこれでClose To Youを歌って見せていました。ファンク系の人もしゃべる系です。Metersも「Funkify Your Life」でじゃべっています。
一方、ジョーウォルッシュ「Rocky Mountain Way」やリックデリンジャー「Teenage Love Affair」は、ワクワウでも言葉でもなくガウガウといううような面白い音を出すという感じで使っています。ピーターフランプトンは「Show Me The way」が有名ですがワウワウとガウガウでしょうか。レコードは大ヒットし、当時この音が頻繁にラジオから流れていました。ちなみに、ジェフベックはフランプトンのを聴いて使うのをやめたと言っていました(否定的な意味で・・・笑)
言葉をしゃべるにはなかなかコツが必要な機械です。それからするとジェフベックは相当練習したのでしょう。めちゃくちゃ上手いです。なかなかああいう風に太い音でクリアに面白い音を出すことができません。また、音質もとても大事で、歪みが多すぎると音がぐじゅぐじゅになって輪郭が分かりにくくなります。ですからエフェクターで独自に音質の調節ができる事が望ましいです。
●ジェフベックによる解説
構造
基本的な構造はとても簡単です。だから自作する人も多いわけです。ただ出力の大きなドライバーやコンパクトなアンプの調達が難しいかも知れません。ロックバンドで使うには、かなり大きな音が必要です。前項でご紹介したロクトロンは、とても大きな音がします。構造は簡単に言えば中に小さなギターアンプを入れてスピーカーからホースで音を引っ張り出してくる。それだけです。それをいかに機能的に作るかです。
エフェクターでゲイン、トーン、ボリュームが調節できるので理想的で、それがフットスイッチだけで切り替わります。ホースはマイクスタンドへの固定が必要で、ホースと口の距離の調節が使い勝ってにつながります。マイクに固定するタイプのは、首が固定されるので指板が見えにくく慣れが必要です。その点バッグタイプは姿勢が固定されないので弾きやすいと思います。ただジェフベックの使っていたKUSTAM ELECTRIC社のものは、中にアンプが入っておらず外部アンプを使うようになっていて現物を見ると複雑な回路仕様になっており手軽に使えるような感じではありません。ジェフベックもアンプはフェンダーのチャンプを使用し使用環境をカスタマイズして使っていたのではないかと思います。そのあたりの考察を下記ページで紹介しています。
*関連記事:「トークバッグの真実」
現在では、なかなか製品として販売しているメーカーが少なく、製造中止になったりするため、自作する人も多いのだと思います。2023.11月現在 MXRとTC Electronixからでているようです。しかし、ボーコーダーでは得られないアナログな面白さのある装置です。
ちなみにジェフベックのトーキングモジュレータが聴けるアルバムは、「BBA Live In Japan & London」「Blow By Blow」「Jeff beck Live With Jan Hammer Group」「UPP」「Wild Thing」(シングル盤:全編トーキングモジュレーターで歌っている)「Moon Age Dream」David Bowieの映画(ジェフベックの出演シーンがありバッグ型トーキングモジュレーター使用シーンが映る)
●Rocky Mountain Way Live At The Capital Center March 1977(3:20あたりから)
●Cry Baby/Wah Wah Watson
●Peter Frampton Live 1975 Show Me The Way