ロックやるならブルースのすすめ〜気軽に楽しむブルース基礎講座〜

カルチャー
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ブルースの存在感

ジェフベックがなくなって、改めて昔のアルバムを聴いていたりしていると、改めてブルースを聞きたくなってきました。第一期ジェフベックグループはブルースを基調としたブルースロックで、当時はそれが最新の音楽であり、まさにロックの幕開けみたいな音楽だったわけです。加えてボーカルとギタリストが互角にフロントに出て演奏するというスタイルも第一期ジェフベックグループで確立されたものが、レッドツェッペリンに波及し、ロックの雛形になりました。

ロックが生まれた70年代はとにかくロックというのはブルースから進化しているというのが王道だったので、ロックギターを弾きたい人はみんなブルースから入りました。逆に言えば、ブルースを知らないとロックができなかったのです。例えギターを弾くきっかけがレッドツエッペリンだったとしても、彼らがお手本にしたルーツのブルースやロックンロールを学ばないと彼らが醸し出している匂いをなぞることができなかったのです。

しかし、そういう「勉強」的な目的だけではなく、ブルースには、なんとも言えないムードがあります。それはジャズでもカントリーでも同じですが、高校性の私にはブルースには、なにか大人の男の匂いがしたのです。それは風俗とかそういうことではなく、ルートから4度に行くとき、あるいは5度から4度、そしてルート、ターンアラウンドと、要するにブルースのコードの移り変わりによる場面変化にえも言えぬスリルや怪しさ、なんかありそうな期待感など、それまで聞いていた歌謡曲やフォーク、ポップスにはない怪しさが漂っていました。その怪しさは、ロックの格好良さとも共通していたような気がします。とにかくブルースの格好良さは、言葉では言い表せないムードでしょうね。もちろん、好みの問題でしょうけど。

ロックやエレキギターが登場して半世紀以上経って、音楽や演奏する人も様々になっています。エリッククラプトンがシンガーだと思っている世代には、クラプトンとブルースは結びつかないかも知れません。クラプトンのブルースにしびれた我々には隔世の感です(笑)また最近は、ブルースを通ってこない人もいるようで、セッションなどで12小節のコード進行で迷子になるどころか、そもそもコード進行の方を知らない方もいたりして、そういう所でも時代の移り変わりを感じてしまいます。我々の世代は、目をつぶっていても数えてなんかいなくても、感覚的に12小節が進行します。そんなブルースの面白さを紹介してみたいと思います。

ネットで検索するとペンタトニックとか理論の説明があるのが多いのですが、まずはスケール名や理論などを憶えなくても、もっと感覚的に憶えられるのがブルースの良いところです。必要なら理屈は後で覚えて理解できれば良いのではないでしょうか(理屈など知らなくても素敵な演奏をしている人は山ほどいると思います)。まずは感覚的に楽しむ。ロックのレジェンド達はそうやってカッコイイギターが弾けるようになっていったはずです。ジミーペイジも「学校で習わなくても良いのがロックギターだ」みたいな事を言っています。

日本のブルースはブルースか?

昭和の生まれの人は「ブルース」というと淡谷のり子とか青江三奈とか、演歌のような歌謡曲の歌手を思い浮かべたものです。初めて本当の「ブルース」を知ったときには驚きともやもやが生まれました。なぜ淡谷のり子が「ブルース」と言われるようになったのでしょう。明解な答えはないようですが、ムードだけ歌謡曲に取り入れたってことなのでしょう。

*Yahooニュース「歌謡曲とどう違うの?」 完全なガラパゴス化を遂げた日本のブルース、発展の歴史を探る

ブルースには型がある

コード進行の型

ブルースの面白いところは、型があることです。1コーラス12小節でコード進行も決まっています。そして、リズムの型、音階の型、つまりコード進行、リズム、音階の3つの要素で型が決められているという、ある面、実に窮屈な型ですが、これはとてつもなく自由度の高い、表現の奥行きの深いものなのです。この型こそがブルースのブルースたるところで、この型がかっこよく聞こえると同時にこの型の中でどれだけパフォーマンスをできるのかという点も面白いわけです。この型があるということも、知った当時は面白いなあと思いました。
ブルースには型があり、その方を踏襲して初めてブルースなのに、なぜ日本のムード歌謡にはブルースを名乗る楽曲があったのでしょうね。そもそもブルースというもの自体がよく理解されていなかったのかも知れません。なんせ、1ドル360円、海外の情報なんて全然入ってこない時代の話ですからね。
で、このブルースの型が、人間が語るときの感情に凄く合うわけですね。ブルースの歌詞の内容を見てもそんな感じで、歌詞と楽曲の進行がシンクロしています。もちろん、歌がなくても型さえあればインストルメンタルでも楽しめます。だから、楽しいわけです。楽譜などなくてもキイさえ分かれば、途中からでも入れるわけです。ちなみに、ジャズでもブルースが出てきますが、ジャズでのブルースは、このブルースが進化したもので、コードも少し違うところがあり扱いもジャズ的になるのでここでの話とは少し別物になります。

●基本的なコード進行

●参考:ジャズブルース進行の一例
ジャスにおけるブルースは、コード進行が少し違ってくることが多いので注意。

コード進行とシンクロする歌詞の型

ブルースの多くは歌があります。英語でBlueは、辛い悲しいという心の表現。そういう歌がブルースなのです。ブルースの歌詞は、その名の通り大概が誰かに自分の苦しさを分かって欲しいと切々と訴える内容です。面白いのは歌詞のパターンがあって大概がこんな感じです。
まずは「おい、友だちよ聞いてくれ、彼女が出て行っちまったのだよ。」こういう感じのが、最初のルート4小節で来ます。次の2小節、コードが4度に進行して話が展開すると「気がついたら、男がいたんだ。参ったな」と詳細が語られ、次の2小節はルートに戻ってしんみり余韻(笑)そして、最後の4小節、5度に行く時には「だけどだけど・・・」とまた話が展開しそうなので聞き耳を立てると、4度に降りてきて「やっぱ俺には彼女しかいないんだ、どうしよう」みたいな情けない話でルートに戻ってきます(笑)最後の2小節の余韻で、やる側も聞く側も次の準備をして1コーラス終了。
2コーラス目は、「そもそも彼女との出会いは・・」みたいな思い出話を聞かされ「やっぱりあきらめられない」とかなんとか、どうしようもない話になって間奏に突入。ここで思いの丈を目一杯熱いギターソロにぶち込みます。散々熱く弾いた後は、ちょっと冷静になって「だけど考えてもみれば・・・」みたいに視点が変わり、3日目に彼女が戻ってきた話を聞かされたりします(笑)最後は、「やっぱ彼女最高!俺のハニー!!」みたいな、単純な男の話で終わる(笑)みたいな、他愛もない恋バナかもしくは、ひどい労働や生活の憂さ愚痴哀しみ、その中の一筋の希望みたいな・・・。こういう話の進み方をするのが多いです。
ブルースの型に載せて、日頃の思いやできごとを即興でおもしろおかしく歌う人もいます。まるで河内音頭のようです。大概が笑わせてくれます(そういう人は関西に多いかも 笑)。そうです、ブルースはお笑いにもなるのです。

音階の型、ブルーノートスケールの妙。

ブルーノートスケール

ブルースを知ったときにブルーノートスケールなるものを知りました。そもそも音階というと、ドレミファソラシドしか知らなかったギター小僧には、ブルーノートスケールは、新しい世界の扉のように見えました。なるほど、この音階を使うとブルースらしい響きになるのだと。
実際、クリームでエリッククラプトンが弾いているフレーズは、ほぼブルーノートスケールに収まります。なるほどねぇ〜〜という納得と共に、ブルースというのはこれを組み合わせてフレーズにして行けば良いのだということも分かりました。それにスケールそのものがまさにブルースの怪しい匂いを放っています。クリームのSunshin Of Your Loveのリフなんて、ブルーノートスケールそのままやん!みたいなことにも気がついて、さらにブルースが近づいて来ました。ブルースの演奏をよく聞いていると、だいたいみんながチョーキングするのはここだなというところとか、最初はこう入るとか最後はこう終わるみたいな流れも見えてきます。さらに、エリッククラプトンのソロを聞いていると、B.B.Kingとかのフレーズがよく出てくることも見えてきます。
ちなみに「ブルーノート」という音自体は、3度5度7度(つまりミソシ)を半音下げた音のことだそうです。ブルーノートというホールやレーベルがありますが、あの名前はこのブルースのスケールの音の呼び名から来ています。ブルーノートは、ジャズのレーベルですが、そういうことからしてもブルースがジャズにとってもとても重要な音楽だということが分かりますね。実際は、このブルーノートスケールを基本に2度、長3度、6度の音を加えて弾かれることが多いです。

*ブルーノートスケール

ブルースの不思議。メジャーなのかマイナーなのか?

コードや音階に慣れてくると、ある不思議なことに気付きます。このブルースのコード進行やソロには、マイナーとかメジャーとかの明確な区別がないことです。一般的に楽曲は、メジャー(長調)かマイナー(短調)のどちらかです。しかし、ブルースのソロにはマイナー的な音階(短3度)も出てきますが、同時にメジャーの音階(長3度)も出てくるのです。ときには両方が連続して出てきたりします。これもブルースを知ったときに驚きました。だから、厳密に言えば、ブルーノートスケールをベースにメジャーの音階を混ぜて弾くというというわけです。その混ぜ方にセンスが光ったりするわけです。これは、先の歌詞の話でも分かるように、辛い話かと思えば結構喜んでいたり(笑)、辛い中にも希望を見いだしたりという明るさが見え隠れするからではないでしょうか。

この周辺の解説にはペンタトニックという言葉が出てきて、マイナーペンタとかメジャーペンタとか、ややこしい話になるのですが、要はブルーノートスケール(=マイナーペンタトニック)に、2度(レ)、長3度(ミ)、6度(ラ)を混ぜた音階で成り立っているわけです。ジェフベックなどは、ジャズ的な楽曲でもこれで弾き通します。解説本などでは、イオニアンとかなんとかいろいろスケールを当てはめていますが、ジェフベック当人はそんなことはまったく考えていなかったはずで、ブルースやロカビリーで身につけた音階感覚とフレーズだけで弾いていたはずです。だから少々強引なフレージングもあったりするわけですが、その辺も個性にしてしまっているところが凄いです。ジャズ的な場面でジャズアプローチをせずペンタトニックで弾くとダサイとか言われそうですが、誰もジェフベックをダサイなんて言いません(笑)言った方がダサイと言われそうです(笑)そのくらいブルースのスケール感というか音階感覚は「使える」のだということですね。
この簡単な感覚だけで、12小節の型のなかで弾けるのがブルースであり、その型の中でいかに楽しさや悲しさ、ウキウキワクワク、しんみりなど、いろいろな感情を表現できるというのが面白いところです。ジャズのように難しい展開や知識も不要で、ちょっと慣れたら本当に感覚だけで12小節弾けてしまう、そんな自由度の高い音楽なのですね。こんな不思議で面白いスタイルの音楽は、ほかにないのじゃないでしょうか。


●ブルーノートスケールに2度(レ)、長3度(ミ)、6度(ラ)を加えたポジション


*キイがAの場合の周辺ポジション。特に2フレット、5フレットを中心に考えるのはよく使われるポジション。

*ブルーノートスケールに2度(レ)、長3度(ミ)、6度(ラ)を加えたポジションでの一例。

リズムの型。3連という快感。

ブルースにはリズムにも型があります。例外を除いて3連のちょっと弾んだリズムです。スローでも少し早いテンポでも4分音符が3連符になっている感覚が基本です。ミドルテンポのブルースは「ジャンプナンバー」と呼ばれたりして、ぴょんぴょん弾んでいる感じです。このシャッフルのリズムが実に心地よい。特に日本人には、盆踊りや阿波踊りでなじみがあります(ノリは全然違いますけど)。このシャッフルのリズムで演奏するみんなが一体になるとなんとも言えない楽しさになります。これがグルーヴなのでしょう。ただ、このシャッフルというリズムは、突き詰めていくと簡単ではありません。がしかし、細かいことは言わずに、ノリで楽しめば良いんじゃないでしょうか。物事は深く知るほどその難しさが見えてくるものです。手軽にも楽しめるし、深くも楽しめる。そこもブルースの面白いところだと思います。ちなみにブルースのリズムをはねずに8ビートにしたのがロックンロール、もっとはねさせるとブギウギになったりします(ただし、この辺りの定義は曖昧)。
また、ブルースの進行を持ちながら、リズムがファンキーになって、「ファンク」に分類されるようなものもあります。明確な線引きは難しいし、線を引く意味もないかも知れません。

白人ブルースと言われたロック。

ブルースは3キング(B.B.king、Freddy King、Albert King)に代表される黒人の音楽です。それに憧れたて自分たちで演奏し始めたのがロック黎明期の白人ミュージシャン達です。
ジョンメイオール、エリッククラプトン、ジェフベック、ジミーペイジ、ピーターグリーン、ローリングストーンズなど英国勢、アメリカのオールマンブラザーズ、マイクブルームフィールドなどなど、ブルースではなくロックに位置づけられるミュージシャン達。彼らは、より洗練されポップに仕立てたブルースを演奏することで、多くのオーディエンスを得、やがてロックに進化させていきました。白人ブルースはブルースではないという論争も沸き起こりましたが、音楽の型で考えるとちゃんとしたブルースです。
昭和世代のギター小僧にも、黒人ブルースよりも白人ブルースの方が洗練されていて分かりやすく、カッコ良く聞こえました。だから、それらのギター小僧は、白人ブルースのギタリストの進化をなぞってロックギタリストに進化していったのでした。ブルースや他の音楽を知っていくと黒人のブルースの格好良さや奥深さも分かるようになりましたけど(もちろん好みもある)。
しかし、60年代に10代の頃から黒人音楽に傾倒したロックレジェンドにはやはり若くしてその深さが分かる感受性があったのかも知れません。だからこそ、そこで得たものを新しく再生しロックギターというまったく新しいスタイルが生まれていったのでしょうね。冒頭に埋め込んだエリッククラプトンの演奏はクラプトンが23歳の頃です。若いお兄ちゃんです。しかし、フレージングもさることながら、ちょっと引きずるようなフレーズの間やギターの音もカッコイイ。黒人ブルースのそういうある種のルーズさを適度に混ぜたカッコ良さ、ファッションで言えばちょっと着崩すようなセンスが抜群だと思います。

12小節を楽しむために

セッションの現場で「12小節を繰り返していても面白くない」なんていう声を聞いたことがありますが、ただだらだらと12小節を繰り返しているだけでは面白くなく怠いだけです。各パートとも、メリハリを付けながら他人の音を聞きながらどんどん変化していけば、こんなに面白いものはありません。ただ、そういうことができるまでにはある程度経験が必要と思いますが。また、ブルースの歴史や進化、周辺の情報を知っていくと、12小節がもっと含蓄の深いものになっていくと思います。単純なだけに、いくらでも変えようがあるというか、表現の余地がふんだんにある音楽です。ジェフベックがブルースを演奏するのを見ていると、1コーラスごとにソロはもちろんバッキングやオブリガードもすべて変えていきます。よくそれだけ引き出しがあるなあと感心しますが(レジェンドだから当たり前ですが)、その中にはロカビリー的なアプローチがあったり、カントリー的なこなし方をしたりと型の中にジェフベック節をこれでもかと展開していきます。一方で、いつも定番的に同じ事を弾く良さも、これまたあるんですね〜。吉本新喜劇のような良さです。とにかく「12小節の繰り返し」と思わず、毎回新しい12小節が來ると思ってやると楽しめるのではないでしょうか。

まとめ

とにかくブルースは、この型が重要であり、型の中でいかに楽しむか。型を共有して老若男女、各パートがみんな楽しめる音楽です。型だけ守れば表現は自由です。いかにカッコ良く演奏するかが勝負で、難しいことなしに技術とセンスの勝負になります。
キイやリズムを変化させると様々な曲になります。型さえ知っていれば、どんなセッションにでもすぐに入れます。ブルースはよく知らないというギタリストは、ぜひブルースの楽しさ面白さを知ってほしいと思います。軽く楽しむのも良いし、極めようと思えば奥は深いです。
エレキギターを前提に書いていますが、もちろんアコースティックギターでも演奏できます。エレキと違った味があり、また違う深みがあります。また、ブルースの楽しさ面白さを紹介したいと思います。


<Going Down Slow/Dave Mason Band> 個人的にロックシーンで最もカッコイイブルースの演奏だと思っている演奏です。メインで歌っているのは、オルガンのマイクフィニガンです。ジムクリューガーのトーキングモジュレーターのソロやオブリガードもカッコイイし、オルガンのバッキングも絶妙です。
<Bobby Blue Bland Going Down Slow> オリジナル

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