マルチトラックを使った多重録音の面白さ。

機材・装置
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マルチトラックレコーディングと言う言葉は、楽器を演奏しなくても、音楽ファンなら聴いたことがある言葉ではないでしょうか。多重録音をするための手法のことです。
要は、各楽器や歌などのパートをそれぞれ別のレコーディングトラックに録音し、後で音量やその他を調整しながらミックスしてひとつの演奏として仕上げる手法で、今は、ポップスやロック系のすべての音楽がこの手法でレコーディングされていると言っても過言ではありません。
かつてはプロの現場だけで可能だった多重録音は、デジタルの時代になって急激に手軽になり、アマチュアでもかなり高度な事ができるようになってきました。Macには、Garagebandという多重録音できるMTRアプリが無料で入っています。現在、若い人の間で流行っているJ-POPの中には、作者が6畳のワンルームで、パソコンだけで作り上げた作品すらあります。多重録音自体は、マルチトラックが登場する以前でも、2つのモノラルレコーダーでもピンポンしながら重ねていくことができましたが、音質が劣化しノイズが増え、後で音量の調整ができない、テイクの変更ができないなど、制約がたくさんありました。マルチトラックレコーディングの手法が登場してから、そういった問題がすべてクリアされて自由度の高いレコーディングが可能になったワケです。

多重録音の歴史

この手法や装置を発明したのは、ギブソンのギターの名前にもなっているレスポールというギタリスト。この人は、マルトトラックだけでなく、テープエコーなども発明し、優れたギタリストであったと同時に優れたエンジニア&発明家だったのです。
1950年代にこの手法によって発表したレスポール&メリーフォードの「世界は日の出を待っている」は大ヒットしたそうです。当時のレスポールのレコーディングでは多重に録音しただけでなく、テープの回転を変えて1オクターブ高くした独特のギターの音を重ねたり、さらに今で言うスラップエコーなど、実に革新的なアイデアを駆使しています。
レスポールはそれ以前にすでにアセテート版レコードのカッティングマシーンを使って多重録音を行っていたそうです。その後、モノラルのオープンリールテープレコーダー(アンペグ社)を手に入れ、さらに同じものを2台使っての多重録音など、進化していったようです。その後、アンペグ社の8トラックレコーダーの開発に携わり、8トラックレコーダーを手に入れたそうですが、「世界は日の出を待っている」は、モノラルレコーダーで録音したものだそうです。
今聴いても斬新であり、テープ多重録音の割に音質はクリアです。これはレスポールが音質劣化も計算に入れて最初のパートなどのトーン調整をしていたそうです。
レスポールのおかげでマルチトラックレコーダーが誕生し、今まで同時録音しかできなかったレコーディングが、別々にできるようになりました。ミュージシャンのスケジュール調整が楽になり、後のパートが失敗してもやり直しができます。同じ歌手でのコーラスも可能です。

ビートルズのレコーディングでも、4チャンネルから8チャンネルに増えることで大幅に作業が楽になり、その結果サージェントペッパーズのような音楽が作れるようになって来たそうです。プロの現場では、テープレコーダーのトラック数が24チャンネルまで増えていきました。

世界初?TEAC Sound cookee 144 定価175000円

アマチュア用では1980年頃にTEACKがカセットテープで4トラック録音できるマルチトラックレコーダーを発売し劇的に便利になりました。それまでアマチュアは、2台のレコーダーでピンポン録音をしたりして苦労して多重録音をしていました。プロで活躍している私の友人は、144で自主制作のCDをつくり、後に正式にレコーディングしてソロデビューしましたが、時間の制約のない144でじっくり録音した音源の方が内容が良かったです。
その後、デジタルの時代になると、根本的にトラックや録音の考え方が変化し、チャンネル数トラック数をほとんど気にする必要がなくなってきました。今では、スマホだけでも多重録音が可能です。技術の発展とはホントに凄いものです。

多重録音の面白さ。

やった事のある人なら分かると思いますが、例えばギターで弾き語りをし、そこに多重録音でコーラスをつけるだけでも楽しいものです。「おーっ!」ってなります。さらにいろいろな楽器を演奏できる人なら、それぞれを自分で演奏して重ねることもできます。ポールマッカートニーは、早くからこの手法でレコーディングをしており、ビートルズ解散直後に発表された「McCartney」は元祖宅録アルバムだと言われています。日本でも山下達郎の「ON THE STREET CORNER」は1人で多重録音したアカペラとして有名です。

一番の利点は、自分の思い通りにできることです。バンドの場合は、どうしても他人がいるので多少は譲るところがあったりしますが、1人で重ねる場合は誰にも邪魔されません。その分、他のパートや楽器のことも自分でする必要がありますが、そういうことが好きな人なら楽しくて仕方がないはずです。
今ではプロもミュージシャンでもデモを宅録でつくったり、自宅スタジオでアルバムまでつくったりと言うことは珍しくなくなりました。みんなで一緒に音を出すのも楽しいですが、多重録音で自分だけの音をつくっていくのもまた楽しいものです。
また、デジタルの時代になってMTRにアンプシュミレーターやドラムマシーン機能が内蔵され、大きな音を出さなくても本格的なレコーディングができるようになり、狭いマインションの一室でも深夜でも音楽作りができるようになったのも大きなメリットだと思います。さらにインターネットでデータを共有しながら離れた場所に居ても録音が可能になったのも凄いことです。

デジタル技術が進化し、昔に比べると本当に手軽に多重録音ができるようになりました。Macに入っているGaragebandなどでは、楽器ができなくてもバックトラックをループなどを使って簡単に作れます。こんな優れたアプリが無料でついていることに驚きます。
音楽の作り方に新しい方法ができたと共に、新しいスタイルの音楽が生まれる環境もできたと思います。今までは、マニアだけのものだった多重録音が、写真をコラージュするようにカラオケ感覚で音楽作りができるようになったとも言えます。

アマチュアが使えるマルトトラックシステム。

アマチュアが使えると言っても、今や手法自体はプロもアマチュアもほとんど同じであり、使用機材や場所のグレードが違うくらいです。先にも書いたようにワンルームでパソコンだけでつくった音楽がヒットチャートにのるくらいです。バンドの形態やつくりたい音楽によって手法や機材の選び方が違ってくると思いますが、最終的には個人がやりやすい方法と予算で選択することができます。

スマホでできる超シンプル多重録音

最もシンプルなのはスマホアプリでやる場合です。多重録音できるアプリだけでOKです。
iPoneならGaragebandを使えば、トラック数を気にせず録音できます。イヤホンで再生を聴きながら、新しいトラックを録音していけばこたつに入っていても完成します。ギターなどをちゃんと録音するには、オーディオインターフェースやマイクなどを買い足せば良いです。しかもGaragebandは無料です。
スマホの多重録音が良いのは、メロディを思いついたらすぐにデモがつくれるところです。ちょっとピアノやギター(アコギかアンプでならす)を弾いてスマホのマイクで録音し、その上にメロディを重ねておけばイメージをメモとして残せます。
スマホにオーディオインターフェースをつなげば、エレキギターやキーボードなどの電子楽器も録音できます。

スマホが手軽なのは、マイクがついていること。
スマホにオーディオインターフェースを繋げば電子楽器も直接録音できる。

マルチトラックレコーダーでやる多重録音

デジタルレコーダーのマルチトラック(以下MTR)で行うやり方で、楽器を直接繋いで録音できます。パソコンなどを立ちあげたりやっかいなアプリの相性やトラブルに見舞われなくて済むのとオーディオインターフェースを内蔵しているので手軽です。イマドキのMTRには、リバーブやエコーのエフェクトからドラム、ギター用のアンプシュミレーター、エフェクターなども内蔵されている(機種による)ので、これ一台で完結してしまいます。練習用スタジオに持ち込めば、デッドな環境で本格的にレコーディングも可能です。ミキサーはもちろん。マスタリング機能までついている機種もあるので、ミックスダウンからマスタリングまで、要するに一台のMTRの中にスタジオの機能がまるごと入っていて、最終データまで仕上げることが可能です。手軽なのに本格的にできるのがMTRの利点です。また、少人数バンドならライブのマルチトラック録音も可能です。さらに、MTRで録音したデータをパソコンに転送して編集できるので、状況に応じて使い分けるとさらに可能性が広がります。

パソコンで行う多重録音

パソコンで行う多重録音は、DTM(Desk Top Music)とかDAW(Digital Audio Work Station)とか呼ばれたりします。最も自由度の高い方法です。反面、やっかいな問題や知っておかないといけないことなども多く、場合によっては手軽とは言えません。
必ず必要なのがオーディオインターフェースというパソコンに音声を入力するための機材です。それとDAWソフトと言われるMTRソフトですが、これが結構やっかいで、まずウインドウズ用とMac用で異なります(両方にあるものもあります)。そして、プラグインという機能を拡張するアプリが両方使えるものと使えないものがあります。さらにボーカロイドなどの音声合成アプリも制約があります。ちなみにヤマハのボーカロイドは、MacのLogicでは使えません。しかし、ちゃんとやればプロと変わらない音楽作りが可能です。関係するアプリなどは、プロもアマチュアもほぼ変わりません。

ひとつ敷居が低いのはMacです。先にも書いたようにMacにはGaragebandというMTRソフトがはじめからインストールされており、それだけで本格的な多重録音が可能です。プロの人でもこれでデモ音源をつくったり、アルバムまでつくってしまう人もいるそうです。また、上位互換アプリにLogic-Pro(Apple製)というプロ仕様のアプリがあり、Garagebandとインターフェースが同じで、Garagebandのデータを扱うことができるので、アップグレードができるわけです。しかも、Logic-Proは、その内容に比して驚くほど安価です。ウインドウズ用のMTRソフトの半額くらいです。
パソコンで行う多重録音は、機材を揃えてすぐにできるというような代物ではありませんが、こういうことは慣れの問題というのも大きいです。また、ひとつの作品をつくると言うことではなくても、バンドメンバーへ示すデモ音源をつくったり、曲のアイデアをメモしたりするにはとても便利です。
ちなみに、Jeff Beck Fan.netの「マルチペダルでお手軽にジェフベックサウンド」のコンテンツは、MacとLogic-Proでつくっています。

DAWの画面(Logic Pro)

機材の一例

ZOOM ズーム マルチトラックレコーダー 2トラック同時録音 8トラック同時再生 R8

8トラックのレコーダーダーがこんな価格で手に入るなんてテープ時代を知っている世代にするとアメイジングです。最初のカセットテープの4トラックMTRは15万円くらいしました。8トラックあれば結構な音楽作りができます。2トラック同時録音なのでバンドのライブ収録はできませんね。

ZOOM ズームマルチトラックレコーダー R20

8トラック同時録音なのでバンドで多重やドラムのマルチマイク、あるいは少人数バンドのライブ収録なども可能です。こんな凄い機材がこんな価格で手に入るなんて凄すぎます。

TASCAM(タスカム) DP-006 マルチトラックレコーダー

メーカーの謳い文句通り、まさにカセットテープレコーダー感覚で使えるのが利点のMTRです。浮かんだ歌を弾き語りし、それにコーラスや他の楽器を重ねて全体のイメージをつくるなどの作業にはうってつけです。電池駆動なので外へも持って行けます。

アマゾンで「マルチトラックレコーダー」を探す。

ローランド USBオーディオインターフェイスRoland RUBIX-22

パソコンでの多重録音にはオーディオインターフェースが必要。1人でやるなら入力が2つあれば、弾き語りの同時2トラック同時録音もできます。

SHURE ダイナミックマイク SM58

マイクで迷ったらコレを買っておけば間違いないという定番中の定番。ボーカルはもちろん楽器にも充分。どこのスタジオやホールにもあるダイナミックマイクのスタンダード。

レスポール&メリーフォードの「ハウハイザムーン」 メリーフォードのコーラスやギターがたくさん重ねてあり、当時としては画期的な音楽だった。 ちなみにこのギタープレイは、ジェフベックに大きく影響を与えています。
レコーダーの回転数を変えて、ギターではあり得ない音域を重ねている例。 1オクターブ上げるには、半分のスピードで録音したものを普通スピードで回すか、半分のテンポで演奏したものを倍速で回すかしなければならないし重ねる場合はそれに合わせて弾かなければならない。緻密な計算と正確に演奏できる技術が必要です。特に遅いテンポで正確に演奏するのはかなり難しい。後年チェットアトキンスとやっているアルバムなどを聴くと相当上手い。
山下達郎のひとりアカペラ。
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