キャロルキング

ミュージシャン
この記事は約9分で読めます。

キャロルキングという名前は有名ですが、どんな人なのかというのはあまり知られていないかも知れません。
この人は、実はデビューは1958年と非常に古く、16歳の頃から作曲者としてヒットメーカーだったのです。その後、自分でつくって自分で歌うという、当時としては珍しかったスタイルで、いわゆるシンガーソングライターというスタイルの先駆者だったわけです。
キャロルキングの自伝「ナチュラルウーマン」を読むと、大学時代に同じ大学だったポールサイモンと一緒に活動したりもしていて、早くから音楽活動をしていたことが書かれています。
1971年に発表した「Tapestry」が大ヒットし、この中の「It’s Too Late」「You’ve Got A Friend」「natural Woman」は、今や女性ボーカリストの定番曲にもなっています。いまでもキャロルキングと言えば「Tapestry」ですね。
1971年と言えば日本は、大阪万博の翌年であり高度経済成長に少し陰りが見えてきた頃で、経済成長から豊かさへ社会が変わろうとしていた時代です。70年代はロックやフォークなど新しい音楽が生まれた時代。その黎明期に発表されたアルバムだけに、いろいろな分野へ影響力も大きかったと思います。

ひこうき雲

「Tapestry」は、ユーミンのデビューアルバムにも影響を及ぼしています。ユーミン(当時は荒井由実)がデビューするときのアルファレコード・プロデューサー村井邦彦氏は、ちょうどアメリカを旅していたときに「Tapestry」のアルバム制作の現場を見る機会があり、スタジオでミュージシャンが相談しながらアレンジして音楽をつくっていく従来にないスタイルにインスパイアされて、おなじくピアノ弾き語りのシンガーソングライター荒井由実のデビューアルバムを同じ手法でつくることを思いつきティンパンアレイを起用します。当時こういった手法は斬新で、以後、現場のミュージシャンのヘッドアレンジで音楽をつくっていくというスタイルが広まっていったそうです。
そういえば五輪真弓さんも”和製キャロルキング”などと呼ばれていました(それが良かったのか悪かったのかは知りませんが)。五輪さんとキャロルキングの個性は少し違うような気がしますが、ピアノで弾きがたる「女性のシンガーソングライター」というスタイルからそう呼ばれた(プロモーションとしても)のでしょう。五輪さんのデビュー作「少女」も当時不思議なムードの良い曲だなあと思いました。

分数コード

キャロルキングの曲の特徴は、今では一般的(ロックの曲ではあまり使われませんが)になっている分数コード(例えばF/G=FだけどベースはGみたいなコード)を多用する点です。左手と右手が別々に動けるピアノならではのコードの構成だと思いますが、それにより、曲調にある種の浮遊感が生まれてイメージが広がります。こういった楽曲の構造が広がり、日本の音楽にも取り入れられました。
日本における「シティポップ」や「ニューミュージック」(J-POPという言葉が生まれる前、70年代後半から80年代のフォークでもロックでも歌謡曲でもない小洒落た音楽)の小洒落感は、メジャーセブンスや分数コードなど、従来にはないコードの使用に負う面も大きいと思います。
ちなみに、オフコースも早くから分数コードを使った複雑なコード進行を取り入れており、加えて小田和正、鈴木康博の2人の凝ったコーラスが、初期のオフコースサウンドを他のバンドとは違うものに特徴づけていました。オフコースは、元々洋楽的な曲作りをしており、キャロルキングなどの影響も伺えます。初期のオフコースでは「洋楽メドレー」というのをやっており、その中にIt’s Too Lateなども入っていました。

キャロルキング(の自伝)によると、分数コードを使い始めたのは、キャロルキングとブライアンウィルソン(ビーチボーイズ)だそうです。アレンジとしては、以前からこういう音の使い方はあったのでしょうが、コードとして明確にパッケージして使い始めたということなのかも知れません。
話は飛びますが、第二期ジェフベックグループ(1971〜72年)もジャズ畑のマックスミドルトンが加わることによってメジャーセブンスや分数コードが多く使われ(モータウン的だからと言うこともありますが)、当時のいわゆる「ロック」の曲とは、かなり味わいが違います。そこにロック的なジェフベックのギターが乗っかることで、ユニークなサウンドになっています。

派生してジェフベックにも影響?

話は戻って、キャロルキングは「Tapestry」以前にもヒットメーカーとしていろいろな人に曲を提供しており、「Tapestry」にも収録されている(You Make Me Feel Like) A Natural Womanは、アレサフランクリンで大ヒットしました。第一期ジェフベックグループのライブでは、Natural Womanをインストルメンタルで演奏しており、その後によく似た曲調の「Girl From Mill Valley」がアルバム「Beck-Ola」に収録されています。
当時ソウルミュージックへの興味が大きかったジェフベックがこういう曲調のものをやりたかったのでしょうが、「Beck-Ola」のこの曲ではベックのギターはほとんど聞かれません。また、ライブでやるにしても白いサムクック、ロッドスチュアートがいるのになぜわざわざインストでやったのかなど、意味不明です(笑)

曲調や活動

「Tapestry」の一風変わった曲調はその後、いろいろなミュジージシャンをインスパイアして、曲作りの手法が広がるきっかけにもなったのではないかと思います。6度のマイナーから1度さがって2-5で4度に転調する手法は、バートバカラックにもよく出てきますが、どちらが先なのか知りません。こういった曲の途中でよく転調するのもキャロルキングの特徴のひとつかも知れません。転調すると急に場面が変わりますしね。ユーミンやオフコースの曲でも転調が効果的に使われています。

先に紹介した「It’s Too Late」「You’ve Got A Friend」「Natural Woman」は、何度聞いても飽きないし、演奏しても面白い魅力的な曲だと思います。「You’ve Got A Friend」は、ジェームステイラーでも有名ですね。自伝には、ニューヨークから西海岸に引っ越して、ジェームステイラーやデビッドクロスビーなど西海岸のアーチストとの交遊が書かれています。

そのほかに、意外なところ(キャロルキングの当時の仕事を考えると当たり前かも)では、「Tapestry」以前にザ・モンキーズ(ビートルズに対抗してアメリカでつくられたグループ)のマイクネスミスにも曲を多数提供しています。ザ・モンキーズは、日本でもアメリカのTV番組が流れて大ヒットしました。また、一時ダニーコーチマーなどとThe Cityというバンドで活動していた時期もあり、これもカッコ良い曲があります。

自伝によると、後年はアイダホの広大な牧場に住んでいたようですが、アメリカのミュージシャンは政治的な活動も多いみたいで、選挙の応援活動に東奔西走する様子も書かれています。

2013年には、彼女の半生を描いたミュージカル「Beautiful」(Tapestryに収録された曲名)がブロードウェイほかで上演されていたり、アメリカでは国宝級の音楽家ですね。ほかにも多彩な活動をしているはずですが、キャロルキングというと未だに「Tapestry」というイメージです。これは日本だけなのかも知れません。「Tapestry」の曲は、世界中のたくさんのミュージシャンにカバーされています。それらを元曲と聞き比べてみるのも面白いです。

「Will You Love Me Tomorrow」は、元々アメリカのシュレルズという女性グループのために書いた曲(内容は結構エッチな曲 笑)ですが、ジャズギタリストのジョントロペイが全く違うアレンジで素晴らしい演奏にしています。また、キャロルキング自身も時代によって、演奏する度にアレンジを替えており、DVDなどで見るとその違いも楽しめます。

現代の曲を散々聞いた耳で、あらためて「Tapestry」を聞いてみると、新たな発見もあるし、やはり日本と違って、ある種のゆるさ、細かくきっちりやるより全体的な良さを優先させているようなところもあったり、味わい深いものがあります。

TAPESTRYひと言紹介

1.I feel the earth move
頭から熱いビートで始まりますが、Bメロで急に解放されたような場面転換と爽快感のある曲。

2.So far away
弟のことを歌ったそうですが、広がりのあるミドルテンポのバラードで分数コードの真骨頂ともいえる浮遊感とまとまりのメリハリがイメージを広げてくれます。

3.It’s too late
一体どれくらいのミュージシャンに演奏されたのか分からないくらい定番中の定番曲。キャロルキングと言えばこれ。
転調してサビに行くところの快感と戻ってきたところの2-5の快感。エンディングのこういうパターンはひょっとしたらこの曲から広まったのかも。

4.Home again
R&B調のピアノのイントロとアウトロがカッコ良い曲。

5.Beautiful
いろいろな景色が織り込まれたような複雑な曲なのにポップ。

6.Way over yonder
古いR&Bに出てくるようなパターンを変化させて、聴き所を散りばめたような曲ですが、そのミックス度合いが絶妙だからか単調にも複雑にもなっていない。

7.You’ve got a friend
ソウル系の人も良くカバーする定番曲。歌の出だしの不安定な場面からBメロで安心して最後に安定させる流れにストーリーがある素敵な曲。しかし、後半に1度下がって転調して場面がガラッと変わるのが絶妙。You’ve got a friend〜♪のフレーズの落ち着き感が快感。

8.Where you lead
またもやソウル調の曲調でもキャルキングが歌うと黒っぽくないのでポップス的に?聞こえる。

9.Will you still love me tomorrow
割と当たり前のコード進行なのに個性的なメロディ。キャロキングの自伝によると実は10代の女の子が彼に体を許してしまうと彼に捨てられないかと心配する歌なのだそう。ギターと歌でジェームステイラーが参加してます。

10.Smackwater Jack
シャッフルのノリの良い曲。中間のソロの辺りなどで小節数が不揃いなのは、同時録音で目合図でやっていたのでしょうか。向こうの録音には、そういうのが多いですね。

11.Tapestry
2台のピアノが奏でる後ろで、強烈なトレモロがかかっているギターが鳴っているのが面白い。順に転調していきますが、これがアルバムタイトル曲というのは、ある面、不思議。

12.You make me feel like a natural woman
超有名な曲。ゆったりとした3連を感じるロッカバラード風のテンポにコードの動きや構成もダイナミックなイメージの曲で、ピアノだけで演奏されるのも趣があります。

なぜこのアルバムに詳しいかと言えば、過去にこのアルバムをまるごと演奏するというライブを2回行ったことがあるからです(笑)


アマゾンで「キャロルキング」を探す。

Will you still love me tomorrow聞き比べ

The Shirelles
ジョントロペイ
Taylor Swift
ゾンビーズ
レインボー
タイトルとURLをコピーしました