Stephen Stillsは、スティブンスティルス、ステファンスティルスとも表記されますが、アメリカンロックファンにはおなじみの人です。西海岸の音楽シーンの中では大物中の大物。ロック殿堂入りも果たしています。
CSN&Yの中心人物と言っても良いような人で、実に多彩な音楽性を持った人です。
ラテン色も強く、そこにカントリーやブルース、フォークやロックなどが入り交じった独特の音楽性で、それはソロアルバム「スティーブンスティルス」にも表れています。子供の頃に父親の仕事の関係でアメリカや中南米を転々としていたそうで、その時にいろいろな音楽を聴いて居たんでしょうね。アコギ、エレキのギターはもちろん、オルガンやピアノやバンジョー、ベースも弾きます。ボーカリストとしてもギタリストとしても、あるいはコンポーザーやアレンジャーとしても評価される人です。
スティルスの格好良さ
この人の音楽の特徴というかかっこ良さのひとつに、アコースティックギターのソリッドな使い方があります。変な言葉ですけど、アコースティックギターをエレキ的に使うというか、いわゆるフォークとかクラシックのような扱いとは違う、ビートがあるスタイル。そうです、アコースティックギターにロック的なビートを持ち込んだって感じでしょうか。
そのソリッド感は、変則チューニングの効果も大きいと思います。スティルスが多用するドロップDやDAGADの変則チューニングは、3度の音が鳴りません。それによってマイナーかメジャーなのかの色がでないために、明るい暗い悲しい楽しいが音として表現されません。この無色感がソリッドな印象の大きな部分をつくっていると思います。
また、アコギにはエレキのような細い弦を張っているそうで、そのためコードをならすと独特のシャリーンと言う音やときどきビヨ〜〜ンという低音弦が異常に振動するような音が聞こえます。
ソリッド感がオーガニックなサウンドの隠し味に。
このソリッド感は初期のバッファロースプリングフィールド(はっぴいえんどのモチーフになったと言われるバンド。ニールヤングもいた)の頃から伺えます。特徴的なのは、Bluebard(アルバムAgainに収録)という曲。バンド演奏形態ですが、アコースティックギターがメインになっていて、ギターソロでは変則チューニングを使ってリミッターが効いたような独特の音で、独特の音階感のパーカッシブなソロが聴けます。このギターサウンドがその後のCSNやCSNYにもつながっていき、「フォークロック」というジャンルが認識されていきます。
(ちなみにBlue Bardは、ボニーレイットがデビューアルバムでカバーしていて、これがまた違うアレンジで素晴らしい演奏です)
スティルスのそういうソリッドな面は、CSNYのアコースティックサウンドのひとつの味となっています。ニールヤングのような個性的な人が加わってもCSN色が崩れないのは、それのおかげではないかと思います。
また、Blue Bardは、最後にがらりと場面が変わって軽快なバンジョー(スティルスが演奏)でフェイドアウトしますが、アメリカ人らしくこういうカントリー的なテイストも持っています。
泥臭さと洗練が同居。
多彩さは、CSNY等の後に結成するマナサスの中でも発揮されます。Down The Roadという曲は、カントリーっぽいアコギのストロークに泥臭いブルージーな歌とスライド(スチールギター)が乗っかったカッコ良い曲ですが、このアコギが変則チューニングとリミーターの詰まった音色により、ソリッドな味になっていて、明るい暗いがある普通のカントリー色とはひと味違ったものになっています。どろ臭いスライドブルースとカントリーギター、しかしソリッドでクリアなギター、そして黒っぽくはないけど泥臭い白人ブルースの歌、なのにコーラスはめっちゃ黒っぽいというスティルスならではのサウンドが、シンプルなこの曲に洗練されて(泥臭いのに洗練とは変ですが)凝縮されているように思います(スチールギターはスティルスではないかも)。
マナサスというバンドは、今で言うフュージョン的な事を早くからやっていたバンドで、スティルスのラテン色や多彩さが散りばめされていてコアなファンも多いですが、いまいち象徴的な曲がないというか、まとまりに欠けていたような気がします。
私自身がスティルスのファンなのに、聴いても残らないというか、良いのだけれど感動は薄いというか、Down The Roadは、地味だけど画期的だとは思いますが。
スティルスサウンドを聴くなら。
スティルスも「スティルスを聴くならどの時期を聴けば良いですか」と聞かれたら困るミュージシャンです。しかし、とりあえずは「CSN」でしょうかね。それと同時に初めての「ステファンスティルス」を同時に聴くのが良いかも知れません。Black Queenというアコギ1本でやっている曲がカッコ良いです。また、Love The One Your Withという曲はソウル系のアーチストで有名ですが、スティルスのオリジナルです。これもDAGADチューニングでガンガン弾いています。
スティブンスティルスは、CSNのデビュー前、1968年に話題になったスーパーセッションにも参加しており、このセッションレコードは話題になり、その後に大物同士の企画セッションが行われるきっかけになったと言われています。
この中でボブディランの「It Takes a Lot to Laugh, It Takes a Train to Cry(悲しみは果てしなく)」を演奏していますが、これが名演で年代を考えると後のアメリカンロックにもつながる画期的なサウンドではないでしょうか。
余談
バファローの頃から、CSNY以降に至るまで、ニールヤングとは盟友でもあり、ライバルでもあり、一緒にやったり解散したりということを繰り返しています。スティルスとヤングって、個性が両極端なような気がして、合わなさそうなのに、一緒にやるとそれはそれで収まってしまう不思議な関係です。バッファローもCSNYも個性の寄り集まりみたいなバンドだし、音楽スタイルもベースは共通しても、かなり違ったタイプの曲があり、何ひとつのモードで統一されているって感じではないので、できるんでしょうね。でもやはり、すぐ解散してしまう(笑)
スティルスは、ギターコレクターとしても有名で、高価なギターを何百本も持っているそうです。スティルスのギターと言えば、ニールヤングと共に、D45とグレッチのホワイトファルコンが有名ですが、2013年に来日した時は、どっちも持ってきてなかったような・・・・。
CSNもしくはCSNYの80年代以降のライブを聴くと、アコースティックギターに異常にコーラスやコンプをかけたようなサウンドで、個人的には、ん〜〜〜・・・って感じなんですけどね〜
でも、CSNの最初のアルバムのJudy Blue Eyesなどでもおそらくピックアップをつけてコンプをかけたようなアコギの音で、先にも書いたような細い弦もあいまって、アコギなのかエレキなのか分からないような音になっています。
ちなみにCSNYの曲として有名な(ガロもやっていた)Judy Blue Eyes(青い目のジュディ)のJudyは、当時恋人だったJudy Colinsという女性シンガーのことです。後に結婚したか何かです(その後別れたかも)。
とにかく、多彩で、それだけでなくこの人にしかない独特のサウンドで、ふと思い出して聴くと「かっこいいなぁ」と思わせる人です。
*おすすめの曲
Bluebird(Buffalo Spring Field Again)
Suite: Judy Blue Eyes(CSN)
You Don’t Have to Cry(CSN)
Helplessly Hoping(CSN)
Carry On(CSNY)
4 + 20(CSNY)
Black Queen(CSNY 4wayStreet)
Black Bird(CSN ビートルズの曲をCSNY風にやっていてカッコ良い)
Down The Road(マナサス)
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