ツボと言うよりコツの方が妥当でしょうか。いやしかし、弾く方にとっても快感があるからツボでしょうか。個人的はロックギターの技術でフィンガービブラートは必須項目であるような気がします。とはいえ、何でもかんでもやたらと強烈にビブラートを掛けるというのも聞いていて暑苦しく感じるときがあります。その辺のさじ加減が難しいところなのかも知れません。
フィンガービブラートのスタイル
フィンガービブラートには、いろいろなスタイルというか個性があるので一概にどれが正解かというのは言えないところがありますが、ブルースブレイカーズ〜クリーム時代のエリッククラプトンのビブラートがひとつの理想型ではないでしょうか(後年のクラプトンはやり方が変わっていて、昔のようなエモい感じではなくなっています)。といっても音楽のジャンルによって違って来るとは思いますが。
メタル系のビブラートは、振れ幅が大きくレートが低いチョーキングの延長のようなものが多いと思いますし、クラプトンタイプのはブルースから来ているタイプです。ただ、昔からビブラートの代名詞のように言われるフリーのポールコゾフはちりめんビブラート(レートが細かい)で個人的にはあまり好みではありませんが代名詞のように言われるので人気があるのだと思います。
ゲイリームーアもどっちかといえばちりめんぽいですが、そこまでいかない微妙なラインです。クイーンのブライアンメイは滑らかできれいなビブラートを使います。音色と共にブライアンメイの個性にもなっていると思います。特にいくつもギターが重なるギターオーケストレーションではとても効果的です。有名なボヘミアンラプソディのソロはフィンガービブラートがとても重要です。
ジミヘンとかジェフベックなどは、あまりフィンガービブラートを意識させないプレイが多いような気がします。しかし、ここぞという所ではその場に応じたビブラートをかける感じ。なのでビブラート自体の個性というのはないような気がします。特にジェフベックはルーツがロカビリーなのでそのあたりの背景もあるかも知れません。ロカビリーはフィンガービブラートよりトレモロアームによるビブラートが多いように思います。
ルーツを遡って3キングに代表されるようなブルースギタリストはビブラートが顕著です。B.B.Kingなどは手の平を広げたような状態でヒラヒラさせながら特徴的なビブラートを掛けていました。昔のクラプトンのビブラートはあれから来ているのだと思います。
カントリー系のギターは、細かいフレーズをたたみかけるように弾くスタイルで、逆にビブラートをかけないスタイルだと思います。しかし、カントリー系のギタリストは、ロックからジャズまで何でもできるようなところがあり、ロック的な演奏をするときはロックギタリストに変身する器用なところがあります。とにかく技術的にはとても高度な人達なので何でも来いな感じです。
最近では弦を押すのではなく素早く反復スライドさせてビブラートの効果を出すような奏法もありますが、あれはあれでカッコイイですね。
ジャズ系の場合
ジャズ・フュージョンのギタリストの全般的な傾向としては、フィンガービブラートが上手い人が少ない。というか、そもそもジャズでは基本的にフィンガービブラートを使わないと思います。これはロックとジャズの表現の方法論が違うからでしょうね。そう考えると、フィンガービブラートはブルースやロック特有の表現技術だと言えるかも知れません。
意外なところでエレキを弾くときのアルディメオラ、スタンリークラークバンドにいたレイゴメスやイカルスジョンソンは、ロックギタリストと言っても良いくらいロック的演奏が上手いです。ジャズもできるし両刀遣いですね。最近はそう言うギタリストが増えているような気がします。特にジャンルは意識していないのでしょう。
例外的なのはジャンゴラインハルトが作ったジプシージャズで、アコースティックギターを使って演奏しますが、独特のフィンガービブラートを使いジプシージャズのスタイルになっています。
ビブラートの効果は「間づくり」でもある
同じフレーズでもビブラートがある時とないときでは、蓬莱の肉まん(関西では豚まん)がある時とないときくらい違います(笑)イマドキに言えば「エモさが違う」。それと大きなメリットとしては「間が持つ」という感じです。例えば演奏の空間で1音だけをピ〜ンと弾いても間が持ちませんが、そこにビブラートを掛けると間が持ちます。また「次のフレーズまでの間を作る」のにも効果的です。これはとても大事で、その「間」によって次のフレーズの立ち上がり方が大きく違って来ます。ビブラートを掛けるというのは、そういう効果の方が大きいかも知れません。そういう面でもビブラートの個性によってソロなどの表現力は大きく違ってくると思います。一番下にサンプルを載せているのでご興味あれば聞いてみてください。
ビブラートの実際
中指と薬指、または人差し指と中指を使ってチョーキングの要領で行うのが多いと思いますが、ポジションによっては、チョーキングを伴わない人差し指や時には小指などでもできるようにしておくと自在にハンドリングできて表現が広がります。
アコースティックギターの場合
アコースティックギターでは、エレキよりも弦が太く、チョーキングがしにくいため、主にフィンガービブラートではなく腕を使って弦を横方向に押すことでビブラートを掛けますので振幅の幅が狭いです。しかしアコギでもエレキのように細い弦を張り、エレキと同じようにフィンガービブラートを使う人もいます。スティブンスティルスなどもそうです。CSN&Yの演奏を聴くと、コンプレッサーの効いた音にここぞというところでフィンガービブラートを掛けて細い弦と相まって「ビヨ〜〜〜〜ン」というような他にはないサウンドを作っています。まさにエレキのようにアコギを弾いている感じです。また、前述のようにジプシージャズでは独特のフィンガービブラートを使います。逆に言えばアコギでフィンガービブラートをうまく使えばジプシージャズ的な味付けができると言えるかも知れません。
フィンガービブラートと言っても音楽のスタイルや楽器で異なりますし、そこに演奏者の個性も載ってくるので実に多様です。いずれにしてもとても重要な表現技術だと思いますし、自由に使えるとさらにギターを弾くのが楽しくなり世界が広がると思います。
サンプル
ビブラートのある時ない時
蓬莱の豚まんのCMのように、ある時とない時を並べてみました。
●1音でのビブラートあるなし
●フレーズでのビブラートあるなし
●低音弦でのビブラートあるなし
●低音弦でのビブラートあるなし2
●フレーズでのビブラートあるなし2
●ダブルチョーキングでのビブラートあるなし
●フレーズからのビブラートあるなし
活用編
●チョーキングからビブラート
●スライドしてビブラート
●フレーズの最後に味付け
●1音のビブラートで間を持たせる
●フレーズの中に効かせる例「迷信」